実務翻訳雑記帳

特許・技術・法務系の和英翻訳ノート

特許翻訳を自習するには

文芸翻訳と違って、実務翻訳の場合は、なんとなく翻訳者になってたという人が多いように思います。私もそうなんですが。特に、特許翻訳だと、特許事務所に勤務していてなんとなく翻訳やるようになったという無自覚的キャリアパスが多数派なような…。

でも、最初から実務翻訳者を目指して勉強してる人もいるようで、様々な講座や試験などもありますね。

こうした学習者さんの答案を採点したりする機会もあるのですが、立派に使える翻訳を仕上げてくる人も少なからずいます。実務にふれなくても、勉強の仕方はあるようですね。

私は勉強しに行ったり、教えてもらったりというのが苦手なので、新しい分野の勉強をするときには、たいてい書籍で独学します。でも、特許翻訳とか特殊な分野だと、あまり書籍が充実してないのが困りますよね。

特に、和英の教材が少ないように思います。この分野でまとまった本としては、
倉増 一『特許翻訳の基礎と応用
ぐらいだったと思いますが、最近では、
中山 裕木子『外国出願のための特許翻訳英文作成教本
がよいですね。

この本を繰り返し読んで、演習していけば、ちゃんと仕事できるようになると思います。この分野の学習者にはありがたいことだと思います。

中山先生のストイックなお仕事ぶりにふれると、自分の姿勢が恥ずかしくなってしまうのが困りますが、とても良い本だと思います。いくつか細かい疑問点もありますが、それは、そのうちまとめて書くつもりです。アマゾンのレビューとかの方が読んでもらえるかな?

どうでもいいことなんですが、中山先生の話題が、倉増先生とかぶってたりすることがよくあるので、なにかご一緒に研究会とかしてらっしゃるのかな。

中山先生のようには、仕事に熱中できない怠け者ですが、お金を払ってくださる人がいる以上、しっかり勉強して恥ずかしくない仕事を仕上げたいものです。地道にベンキョーしよ。

中間処理

特許事務所は、主として特許庁への出願業務をやるわけですが、案件が特許庁に係属した後、審査官とやりとりすることがあります。ちなみに、日本では、金を払って審査請求というのをやらないと、審査してくれないんですが…。

審査のプロセスで、審査官が理由を示して、特許できないよ~と言ってくることがあります。特許事務所側は、顧客と相談しつつ、審査官の指摘に反論して、特許してもらおうと頑張るのですが、こうした業務を中間処理というのですね。
出願と、査定との間のプロセスだから、「中間」なのかな?

特許事務所に勤めてると、出願とならんで、中間処理もよくやらされるので、その翻訳もなんとなくできるようになるのですが、事務所経験ない人が中間処理翻訳しようとすると、ちょっとハードル高いかもしれません。

中間処理翻訳は、関連文書を読み込んで用語を統一したりと、結構手間がかかるので、まっさらな状態でできる出願文書の翻訳のほうが効率的かも。でも、新規のお客さんを開拓するときなんかに、「中間処理もできます!」とかいうのは、強みですよね。

さらに特許裁判書類もやりますとかいうと、重宝されます。技術系の話題が飛び交うと、リーガル系の訳者さんが敬遠したりするらしくて、私のような未熟者にも、そういう案件が流れてきます。

中間処理や裁判の時には、審査官が編纂した『特許実務用語和英辞典』というのをとりあえず参照する必要があります。ここに出てる用語を使うようにすると混乱が少ないと思うので。
そういえば、一部ネットでも見られますね。

もちろん、違う用語使ってもいいんですが、その場合にも、この本の用語をチェックして、検討しておく必要はあると思います。

この本の後ろには、「起案例」というのがあるのですが、これが中間処理翻訳に使えるか、というと、かなり微妙。読んでもらうとわかりますが…。

沢井・時國『特許翻訳の実務』という本は、ふつうのことがふつうに書いてある本という感じでしかないのですが、最後の方に、「中間処理の翻訳」という章があって、これはちょっと珍しいと思います。中間処理翻訳書いた本ってあんまりないですから。最近不勉強なので、私が知らない良書が出てる可能性はありますけど。

どういう仕事するにしても、特許関係なら、出願、中間処理、裁判という一連の流れを意識しておくとよいように思います。

米語と英語

中学校で英語を勉強し始めてからずっと、基本的に米語が基調だったのかなと思います。あまり熱心に勉強しなかったのでよくわかりませんけど。

英語を専門的に勉強したわけでもないので、アメリカ英語とイギリス英語とを意識して区別する感覚もなかったのですが、仕事で翻訳するようになってからはやはり気になります。

日本企業がソースクライアントの場合、特許の英訳は、特に指定がなければアメリカ英語にしますけど、引用符と句読点の関係など、一部イギリス英語的だったりもするので、この「業界標準」は、英語に詳しい人のほうが混乱するかもしれません。

昔のイギリス英語みたいに、ピリオドの後はスペース2つ入れるという流儀も残っていますよね。納品前に、正規表現スクリプトで確認するポイントでもあります。

英語をもっと伸ばしていくためにも、自分のよって立つホームのような「英語」を探すのですが、なかなか足元が定まりません。

フレデリック・フォーサイスを続けて読んでいると、イギリス英語いいなぁと思うし、ジョン・グリシャムが続くと、アメリカ英語がやっぱり自分には自然だと思ったり、なかなか流動的で自分ながらガッカリします(苦笑)

ちょっと気になって、娘の高校の先生に、外国人の先生はどこの英語で教えてるのか聞いてみたら、アメリカ人の先生は米語で、オーストラリア人の先生はイギリス英語で教えるようにしてるらしく、米語に統一とかはないらしいです。ただ、オーストラリア英語は、ちょっとだけ遠慮してもらうと。

英語が凄くできる友達が、「イギリスが一番英語通じない」とか言ってたので、その国の標準的な英語と、実際に使われているバリエーションとの差も、いろいろあるんでしょうね。

私の場合、イギリスはドーバー海峡の向こう側から遥かに望んだだけで、上陸してないのでわからないのですが、アメリカ旅行で、地域差に驚いたことはあります。東部は聴き取りやすかったけど、西部はちょっと癖があって聴きづらく、南部は、英語なの?って感じでした。未熟者です。

仕事は米語基調なので、米語に馴染めばいいんでしょうけど、イギリス英語にも捨てがたい魅力があって、なかなか腰が定まりません。

リー・チャイルドとか、イギリス人なのにアメリカ英語で創作してる人もいるんですけど、英米人は、英語と米語、どんなふうに感じてるのかな。

 

和訳と英訳

このところ、和英の仕事がほとんどで、英和をあまりやってません。あ、最近は、日英、英日とかいうんだったっけな…。

ネイティブスピーカー並に英語できる翻訳者さんでも、英和中心にやってる人もいます。ふつうは英和の方が単価安いんだけど、スピード出せるから、そのほうが稼げるんだとか。

和英の方が単価が高いし、私の場合、英和が早くできるという特殊事情もないので、和英中心になるんですけどね。英和しかやらない翻訳者さんも結構多いらしく、両方登録しておくと、和英をたくさんもらえるような気がします。で、いつのまにか和英案件ばかりに。

どちらもそれぞれ難しいポイントがあるのだけど、私の場合、一番気になるのはタイピングです。

このところ予測変換も高性能で、日本語入力も早くなってきてるけど、それでもかな漢字変換とか、画面を常に気にしてないといけないですよね。

和英だと、あまり画面に束縛されずに、バリバリ打ってればいいので、気楽です。やっぱり和英が楽な気がするな。というか、チェックがいらないぐらいに英語できるようになれよ!って問題があるんですけど(苦笑)

特許事務所で、必要に迫れられて翻訳やりだした頃は、英和しかできなくて、和英できる人って凄いなぁとか思ってたけど、先輩方は皆、「和英の方が楽だけどなぁ」とかいってたんですよ。

当時は信じられなかったけど、慣れてくると、確かにそんな感じ。ただ、和英中心で漫然とやってると、英語がレベルアップしない気もするのですね。

だからといって、英和やるのも嫌なので、英語の本をたくさん読んで、足りないところを補うしかないかな。

やっぱり打ち込むのは英語だけがいいなぁ。変換の要らない言語はホント羨ましい。

 

 

辞書

会社や特許事務所に勤務していた時代は、在宅勤務に憧れてました。でも、自営になって、十年以上自宅で仕事していると、今度は、オフィスを借りて毎日出勤したいと思うようになったりもします(笑)。仕事が忙しいと、ほとんど外に出なくなってしまうので、たまに用もないのにカフェに行ったりしますが、外出先ではあまり仕事はしません。仕事部屋のPCには、辞書やツールなど様々入れてあるので、そこで仕事をするのが一番効率いいですし。

一日中PCの側にいると、そこで何でも済んでしまうので、スマホとかあまり必要な気がしません。取引先とも、テキストベースの非同期な連絡がほとんどなので、電話機能も使わないし…。

なので、アプリとかもあんまり入れてなかったのですが、ちょっと思い立ってMerriam-Webster Dictionaryを入れてみたところ、これがかなり使いやすい。

仕事では、Merriam-Webster's Collegiate Dictionaryを使いますが、排列が「歴史順」というのかな、その言葉の由来の古いものから順に並んでいるので、必要な箇所にたどり着くのに時間がかかります。最初からちゃんと読むと、その語義の重層的なスペクトラムがゆっくり広がって、身に沁みるような納得感が得られるのだけど、時間がかかりすぎて、読んでたテキストの内容も忘れてしまうので(笑)、やはり「頻度順」の辞書に手が伸びます。たとえば、The American Heritage Dictionaryのペーパーバック版とか好きです。

ただ、アメリカの特許裁判とかで、語義が問題になると、必ずWebsterが参照されるらしいので、たまに見るようにしてはいました。

それが、アプリ版だと、高頻度の重要語義がまず最初に示され、そこだけ薄いブルーの背景になってて、ひと目ですぐに必要な語義がわかるようになってます。そのうえで、余裕があれば、続くFull Definitionで「歴史順」の記述を読んでいけばよいと。ホントにうまくできてます。

外出時に、ペーパーバックなんか読むときには、スマホの電源を常時ONに設定して、このアプリがいつでも見られるようにしてます。

このWebster、大満足なのですが、ネイティブ・スピーカー用の辞書は、名詞の可算/不可算が載ってなくて、英訳したり作文したりするときには困るので、有料だけど、Merriam-Webster Learner's Dictionaryも入れました。自分がこんなにスマホを高頻度で使うようになるとは思わなかったのですが、スマホ、便利ですね(今更…)。


仕事用のPCには、EPWING規格の辞書をやたらと入れてありますが、主に、『ビジネス技術実用英語大辞典』、『ジーニアス英和大辞典』、『リーダース』+『リーダース・プラス』、『新和英大辞典(研究社)』なんかをよく使ってました。

長年変わらぬスタイルだったのですが、アプリでWebsterをよく引くようになってから、PCにインストールした辞書をあまり引かなくなってしまいました。特に和英の仕事の場合、辞書を引くのは、知らない言葉の意味を調べるというよりは、ボンヤリとはわかってはいることを、確認したり比較したりという作業になるので、最初からWebsterを引くのが手っ取り早いということに、ようやく気がついたのでした(遅っ)。

WebsterにPC版があるのかどうか、知らないのですが、Merriam-Websterと、そのLearner'sがWebにあるので、それで用が足りてしまっています。
昔は、お金を出して辞書やツールを揃えたものですが、最近では、ブラウザさえあれば、Webで何でも手に入るということで、便利な世の中になってしまいましたね。