実務翻訳雑記帳

特許・技術・法務系の和英翻訳ノート

「~部」と"...unit"

特許分野において、ある装置の構成要素の名称として、「制御部」や「画像処理部」など、「~部」という表現が頻出する。これに対応する英語は、controllerやimage processorのように、「部」に対応する単語を含まないことも多い。

ところが、逐語的対応を好むあまり、「~部」を一律にunitとするように指示されることがある。device、section、part、portionが指定されることも。

これが表現上の趣味の問題で済むのなら、そのように用語を統一することはかまわない(仕上がり換算で翻訳料金も高くなるし…)。

しかしながら、unitは、「ユニット構造」を想起させる表現であるため、構成上の限定が強すぎる気がするのだ。すなわち、unitは、複数の機能単位を組み合わせて、ひとつのユニットにまとめたという、高度に限定的な表現になっていないだろうか。

ある単一のユニットが画像処理を担当している場合、それをimage processing unitと表現することは可能だ。しかし、画像処理機能が、複数のユニットに分散配置された構成ではどうだろうか。例えば、ユニットAが要素aを含み、ユニットBが要素bを含むという構成で、要素aと要素bとが連携して画像処理を実行するのであれば、この態様の画像処理手段を、image processing unitと表現することには無理がある。要素aと要素bは単一のユニットを構成しているわけではないのだから。

image processing meansという表現は、MPF形式を避けるという点で現実的ではない。しかしながら、image processorやimage processing deviceなどの表現も、ある機能が単一の構成要素として実装されていることを暗黙のうちに想定した表現であるため、問題は残る。さらに、これをunitとしてしまうと、複数の機能要素を単一のユニットに実装したという、極めて限定的な表現になるのではないだろうか。

本来、様々な実施形態を記述して、その上位概念の用語を定義するなど、明細書起案の根本に関わる問題なので、翻訳者としてできることはほとんどない。それでも、翻訳という一工程を担当する者としては、「~部」を機械的にunitに置き換えることの意味について、もう少し考えてもらいたいと思うのだ。

用語をちょっと置き換えて、権利範囲が広くなったりするはずもないのに、いわゆる「ガイドライン」には、この種の無意味な指示が多く含まれることが多い。ガイドライン策定に関わった知財部員は、既に異動しているかもしれない。誰も得をしない不思議な指示群が、いつまでも改訂されずに残っていたりする。