翻訳作業の実際(用語一括置換+並べ替え)
翻訳作業の手順は、翻訳者によって様々だと思いますが、最近は、Tradosなどの翻訳メモリが急速に普及していますね。
ソフトウェア系のローカライズ翻訳などでは、Trados使わない人はいないのではないかな。
翻訳メモリについては、また書こうと思いますが、まずは、翻訳メモリ登場以前の典型的な作業手順を紹介してみます。
人によって、呼び方は様々ですが、仮に「用語一括置換+並べ替え」とでもいっておきましょう。
まず、重要な用語を対訳式の用語集にまとめておき、その用語集に基づいて、原稿データ中の該当用語を一括置換するのですね。
そして、バイリンガル的にごちゃごちゃになったデータを、並べ替えながら訳文を仕上げていくというものです。
特許翻訳では、水野麻子さんが、Wordマクロで一括置換するやり方を紹介してこられたので、この方式がかなり普及したと思います。
現在は、新田順也さんが、それを継承して、ぱらぱらなどのツールとしてまとめておられます。
Wordで作業するのが苦にならない人は、こうした手法が参考になるかと思います。
でも、Wordってイライラしませんか? やはり、テキストエディタで作業したいですよね。
Wordで支給された原稿ファイルを、テキストファイルに変換して、テキストエディタで「用語一括置換+並べ替え」して、最後にWordに貼り付けて納品という、キセル方式にすれば、できるだけWordをさわらずに済みます(笑)
テキストエディタで作業したい人は、Buckeyeさんの、SimplyTermsが、用語置換とかに有用です。
このSimplyTermsもずいぶん使わせてもらったのですが、私にとっては高機能すぎるのと、あと、特許用にちょっと別の機能を足したいということもあって、今では、自分で書いた簡単なスクリプト(WSH+Jscript)で、作業するようになりましたが。
ちなみに、足した機能は、参照符号をキーにしたスニペットみたいなもので、需要があれば、また記事にしてもいいんですが…。
テキストエディタは、秀丸使ってる人が多いですね。とりあえず持ってはいますが、EmEditorを主として使ってます。ただ、有料のアップグレードが鬱陶しいので、最近では、EmEditor無料版とサクラエディタを組み合わせて使ってますが…。
用語並べ替え作業の際に、EmEditorのキーバインドはとても便利で、無料版で試してみるといいと思います。Ctrl+Shift+上下カーソルで、行単位の並べ替えが凄くはかどるんですよ。
ちなみに、今後はAtomに移行してやろうかと、研究してるところです。
将来的には、やはり特許翻訳も翻訳メモリでの作業が要求されるようになると思いますが、私の場合、今のところ、案件の技術内容がよくわかっていて、7,000 words以下程度であれば、「用語一括置換+並べ替え」が手っ取り早いかな、といった感覚です。
内容が難しかったり、分量が多い場合は、翻訳メモリのフィルタ機能があると助かりますね。表現の統一やチェックも、やりやすいですし。
皆さんは、どんなふうに作業してらっしゃるんでしょうか。日頃、独りで作業してるので、他の翻訳者さんの作業手順とか、できれば参考にしたいです。
特許翻訳を自習するには
文芸翻訳と違って、実務翻訳の場合は、なんとなく翻訳者になってたという人が多いように思います。私もそうなんですが。特に、特許翻訳だと、特許事務所に勤務していてなんとなく翻訳やるようになったという無自覚的キャリアパスが多数派なような…。
でも、最初から実務翻訳者を目指して勉強してる人もいるようで、様々な講座や試験などもありますね。
こうした学習者さんの答案を採点したりする機会もあるのですが、立派に使える翻訳を仕上げてくる人も少なからずいます。実務にふれなくても、勉強の仕方はあるようですね。
私は勉強しに行ったり、教えてもらったりというのが苦手なので、新しい分野の勉強をするときには、たいてい書籍で独学します。でも、特許翻訳とか特殊な分野だと、あまり書籍が充実してないのが困りますよね。
特に、和英の教材が少ないように思います。この分野でまとまった本としては、
倉増 一『特許翻訳の基礎と応用』
ぐらいだったと思いますが、最近では、
中山 裕木子『外国出願のための特許翻訳英文作成教本』
がよいですね。
この本を繰り返し読んで、演習していけば、ちゃんと仕事できるようになると思います。この分野の学習者にはありがたいことだと思います。
中山先生のストイックなお仕事ぶりにふれると、自分の姿勢が恥ずかしくなってしまうのが困りますが、とても良い本だと思います。いくつか細かい疑問点もありますが、それは、そのうちまとめて書くつもりです。アマゾンのレビューとかの方が読んでもらえるかな?
どうでもいいことなんですが、中山先生の話題が、倉増先生とかぶってたりすることがよくあるので、なにかご一緒に研究会とかしてらっしゃるのかな。
中山先生のようには、仕事に熱中できない怠け者ですが、お金を払ってくださる人がいる以上、しっかり勉強して恥ずかしくない仕事を仕上げたいものです。地道にベンキョーしよ。
中間処理
特許事務所は、主として特許庁への出願業務をやるわけですが、案件が特許庁に係属した後、審査官とやりとりすることがあります。ちなみに、日本では、金を払って審査請求というのをやらないと、審査してくれないんですが…。
審査のプロセスで、審査官が理由を示して、特許できないよ~と言ってくることがあります。特許事務所側は、顧客と相談しつつ、審査官の指摘に反論して、特許してもらおうと頑張るのですが、こうした業務を中間処理というのですね。
出願と、査定との間のプロセスだから、「中間」なのかな?
特許事務所に勤めてると、出願とならんで、中間処理もよくやらされるので、その翻訳もなんとなくできるようになるのですが、事務所経験ない人が中間処理翻訳しようとすると、ちょっとハードル高いかもしれません。
中間処理翻訳は、関連文書を読み込んで用語を統一したりと、結構手間がかかるので、まっさらな状態でできる出願文書の翻訳のほうが効率的かも。でも、新規のお客さんを開拓するときなんかに、「中間処理もできます!」とかいうのは、強みですよね。
さらに特許裁判書類もやりますとかいうと、重宝されます。技術系の話題が飛び交うと、リーガル系の訳者さんが敬遠したりするらしくて、私のような未熟者にも、そういう案件が流れてきます。
中間処理や裁判の時には、審査官が編纂した『特許実務用語和英辞典』というのをとりあえず参照する必要があります。ここに出てる用語を使うようにすると混乱が少ないと思うので。
そういえば、一部ネットでも見られますね。
もちろん、違う用語使ってもいいんですが、その場合にも、この本の用語をチェックして、検討しておく必要はあると思います。
この本の後ろには、「起案例」というのがあるのですが、これが中間処理翻訳に使えるか、というと、かなり微妙。読んでもらうとわかりますが…。
沢井・時國『特許翻訳の実務』という本は、ふつうのことがふつうに書いてある本という感じでしかないのですが、最後の方に、「中間処理の翻訳」という章があって、これはちょっと珍しいと思います。中間処理翻訳書いた本ってあんまりないですから。最近不勉強なので、私が知らない良書が出てる可能性はありますけど。
どういう仕事するにしても、特許関係なら、出願、中間処理、裁判という一連の流れを意識しておくとよいように思います。
米語と英語
中学校で英語を勉強し始めてからずっと、基本的に米語が基調だったのかなと思います。あまり熱心に勉強しなかったのでよくわかりませんけど。
英語を専門的に勉強したわけでもないので、アメリカ英語とイギリス英語とを意識して区別する感覚もなかったのですが、仕事で翻訳するようになってからはやはり気になります。
日本企業がソースクライアントの場合、特許の英訳は、特に指定がなければアメリカ英語にしますけど、引用符と句読点の関係など、一部イギリス英語的だったりもするので、この「業界標準」は、英語に詳しい人のほうが混乱するかもしれません。
昔のイギリス英語みたいに、ピリオドの後はスペース2つ入れるという流儀も残っていますよね。納品前に、正規表現やスクリプトで確認するポイントでもあります。
英語をもっと伸ばしていくためにも、自分のよって立つホームのような「英語」を探すのですが、なかなか足元が定まりません。
フレデリック・フォーサイスを続けて読んでいると、イギリス英語いいなぁと思うし、ジョン・グリシャムが続くと、アメリカ英語がやっぱり自分には自然だと思ったり、なかなか流動的で自分ながらガッカリします(苦笑)
ちょっと気になって、娘の高校の先生に、外国人の先生はどこの英語で教えてるのか聞いてみたら、アメリカ人の先生は米語で、オーストラリア人の先生はイギリス英語で教えるようにしてるらしく、米語に統一とかはないらしいです。ただ、オーストラリア英語は、ちょっとだけ遠慮してもらうと。
英語が凄くできる友達が、「イギリスが一番英語通じない」とか言ってたので、その国の標準的な英語と、実際に使われているバリエーションとの差も、いろいろあるんでしょうね。
私の場合、イギリスはドーバー海峡の向こう側から遥かに望んだだけで、上陸してないのでわからないのですが、アメリカ旅行で、地域差に驚いたことはあります。東部は聴き取りやすかったけど、西部はちょっと癖があって聴きづらく、南部は、英語なの?って感じでした。未熟者です。
仕事は米語基調なので、米語に馴染めばいいんでしょうけど、イギリス英語にも捨てがたい魅力があって、なかなか腰が定まりません。
リー・チャイルドとか、イギリス人なのにアメリカ英語で創作してる人もいるんですけど、英米人は、英語と米語、どんなふうに感じてるのかな。
和訳と英訳
このところ、和英の仕事がほとんどで、英和をあまりやってません。あ、最近は、日英、英日とかいうんだったっけな…。
ネイティブスピーカー並に英語できる翻訳者さんでも、英和中心にやってる人もいます。ふつうは英和の方が単価安いんだけど、スピード出せるから、そのほうが稼げるんだとか。
和英の方が単価が高いし、私の場合、英和が早くできるという特殊事情もないので、和英中心になるんですけどね。英和しかやらない翻訳者さんも結構多いらしく、両方登録しておくと、和英をたくさんもらえるような気がします。で、いつのまにか和英案件ばかりに。
どちらもそれぞれ難しいポイントがあるのだけど、私の場合、一番気になるのはタイピングです。
このところ予測変換も高性能で、日本語入力も早くなってきてるけど、それでもかな漢字変換とか、画面を常に気にしてないといけないですよね。
和英だと、あまり画面に束縛されずに、バリバリ打ってればいいので、気楽です。やっぱり和英が楽な気がするな。というか、チェックがいらないぐらいに英語できるようになれよ!って問題があるんですけど(苦笑)
特許事務所で、必要に迫れられて翻訳やりだした頃は、英和しかできなくて、和英できる人って凄いなぁとか思ってたけど、先輩方は皆、「和英の方が楽だけどなぁ」とかいってたんですよ。
当時は信じられなかったけど、慣れてくると、確かにそんな感じ。ただ、和英中心で漫然とやってると、英語がレベルアップしない気もするのですね。
だからといって、英和やるのも嫌なので、英語の本をたくさん読んで、足りないところを補うしかないかな。
やっぱり打ち込むのは英語だけがいいなぁ。変換の要らない言語はホント羨ましい。