翻訳作業の実際(翻訳メモリ)
翻訳メモリというのは、原文と訳文とのペアを文単位で記録しておき、以後の翻訳に再利用しようとするものです。
新たに訳そうとする箇所が、既に訳したところと類似しているときには、対応する訳文を引っ張ってきて、それを修正する方式で、訳文を完成させます。
ソフトウェアのローカリゼーション分野から普及が始まり、特許翻訳でも、特に日英分野で、Trados指定されることが増えてきました。某大手特許事務所がTrados導入してから、普及が加速しています。
和訳の場合、日本語は漢字と仮名のどちらを使うかとか、送り仮名をどうするかなど、表記の揺れがかなりあります。なので、参照すべき翻訳メモリに表記の揺れがあると、それを再利用する際にも、手間がかかって大変です。
共同通信の『記者ハンドブック』をガイドラインとして絶対視する人も多いですが、必ずしも実務翻訳全般に徹底しているわけではありません。個人的には、違和感を覚える箇所も多いです。
そんなこともあって、和訳案件は敬遠しがちで…。
翻訳メモリは、英訳に使った方がストレスなく効率的と思います。
同じ表現を含む箇所をフィルタリングしたりする機能は、使ってみるとかなり便利です。大規模案件の表現の統一が楽になります。
それと、文などのセグメント単位で対訳表示できるので、翻訳後のチェックもやりやすいですね。
翻訳メモリを使いこなしている人は、メモリを蓄積して品質上のメンテナンスにも手間をかけるらしいです。
私は今のところ、翻訳メモリに完全に依存するやり方にはしていないので、ひとつの案件の範囲内で、表現が統一できればいいかな、という感覚で、案件単位と割り切って使います。なので、メモリのメンテナンスとかはしないです。
製品としては、Tradosがデファクト・スタンダードなので、これから導入する人は、Tradosということになるのでしょうね。
私もTradosで作業していたこともあるのですが、どうも複雑で好きになれません。あと、オレたちのやり方に合わせろと言わんばかりの上から目線の会社の姿勢に、マイクロソフト的な気味の悪さがあって、できればおつきあいしたくない文化です。
いきなりTrados買う勇気がない人は、Memsourceを試してみるといいんじゃないかな。無料で十分使えるし、なによりもシンプルなのがいいです。
Memsourceは、クラウド式の翻訳メモリで、メモリや用語集はクラウドで管理して、実際に作業するエディタは、PCにダウンロードしてもいいし、Webエディタを使うこともできます。
これで、ある程度まとまった分量を訳してみると、どんなところが便利なのか、実感が湧くと思います。
ただし、セキュリティにうるさい取引先だと、クラウドにデータを置くことを許さないことも多いので、勉強ならともかく、実案件にはMemsourceを使えないことも多いです。
Memsourceでなじんだら、結局はTrados買って、あの複雑な代物に取り組むということになるのかな。
私は今のところ、Trados案件打診されても、「Trados嫌です~」とかわがまま言って、Wordでフツウに納品したりしてますけど、あれはその後どんなふうに管理されてるんだろう…。
海外では、Wordfast使ってる人もいますが、個人的には、フリーソフトのOmegaTが好きです。
フォーカスしてるセグメントのテキストファイルを吐き出してくれたりするので、使い慣れたテキストエディタを併用することもできます。スクリプト書く人なら、いろいろチューニングする楽しみもありますよ。
翻訳メモリは、プロジェクト全体をマネジメントする視点からも、有用な技術なのですが、クラウド化の方向は、この流れに親和的です。各社単位で、サーバーやセキュリティを完全にまかなうよりも、外注したほうが楽ですし、コストも安くなるでしょう。
Tradosは、先行者の強みもあるけど、逆に、それが足枷となって、新しい流れに取り残されるかもですね。
末端の翻訳者としては、だんだん管理がキツくなりそうで、ちょっと嫌なんですけど、この流れを止めることはできなさそうです。