実務翻訳雑記帳

特許・技術・法務系の和英翻訳ノート

「備える」と「からなる」

特許分野で、ある装置に、A、B、Cという構成要素がある場合に、

「X装置は、Aと、Bと、Cとを備える。」

と表現しますけど、これは、A、B、Cは最低限含んでいるけど、さらにDも含んでいてもいい、ということを意味する表現です。

訳すと、

An X apparatus comprises A, B, and C.

となります。

ちなみに、クレーム(請求項)などで、X、A、B、Cがいずれも長くなってる場合には、

An X apparatus, comprising: A; B; and C.

のように書くことも、よくあります(文ではなくて、クレーム特有の「句」の表現ですけど)。

英語に慣れてる人だと、be comprised ofが浮かぶと思うのですが、古めかしい正式表現のcompriseを使うのですね。


場合によっては、Dなどを含むと都合がよくなくて、構成要素をA、B、Cだけに限定したいこともあります。それを明確に示すには、

「X装置は、A、B、およびCのみからなる。」

とするわけで、これを英語にすると、

An X apparatus consists of A, B, and C.

となります。特許分野では、consist ofは、他の構成要素を含まないことを示すものと解釈されるので、注意が必要です。

このconsist ofに対応する日本語は、本来、「のみからなる」だったと思うのですが、いつの頃からか、「からなる」だけで、consist ofを意味するように解釈する人が多くなってきたように思います。

ただ、英訳する場合に、原文が「からなる」でも、consist ofと強く表現することは難しくて、やはりcompriseを使いますね。「のみからなる」とはっきり書いてくれてないと、consist ofは使えないです。


compriseは、フツウにみられるbe comprised ofと違って、カッチリしすぎた表現ということなのでしょうか。特許翻訳では、権利範囲を主張する「クレーム」(請求の範囲)には、compriseを使いますけど、技術内容を説明する「明細書」や「要約書」では、compriseではなく、includeを用いる傾向にあります。

ただ、話の流れで、

An X apparatus comprises A.

なんてことになる場合、これを、

An X includes A.

とすると、ちょっと変な感じがするので、そういうときは、

An X apparatus may be A.

と表現することもあります。文脈次第ですけど…。